Qu'en pensez-vous?

空間について考えます

『技術とは何だろうか 三つの講演』を読みました

技術とは何だろうか 三つの講演

マルティン・ハイデガー 著

森一郎 編訳

講談社学術文庫

 

を読みました。

 

先日の、「物化」の概念について、ハンナ・アレントであれば、多分、ハイデガーの方を調べた方がよくわかるんじゃないのかな、と思い、上記の本が出ていましたので、読んでみました。

全体を包括する概念としては、「物化」というのが全体を貫いているようでした。

山本理顕さんの「権力の空間/空間の権力」を読みました - Qu'en pensez-vous?

ハンナ・アレントマルティン・ハイデガーと親交があったわけだから、ポリスの都市空間についての知識を持ち合わせていても不思議は無い

山本理顕さんの「権力の空間/空間の権力」を読みました - Qu'en pensez-vous?

目次は、

建てること、住むこと、考えること

技術とは何だろうか

 

となっています。

ハイデガーの講義録は、相変わらずこの調子、何度も何度も同じ言葉を繰り返して学生の頭に言葉を染み込ませるやり方、という感じなのですが、他の講義録に比べてこの講義録はかなり軽い内容になっているように思われます。
後期の講義録ってこんななのかという感じで、物化に関して、おとぎ話のようなストーリーが展開されているように思いました。

確か、私が学んだ先生は「集める」「集約する」という概念のことを、講義でも触れていたと思うし先生の著書にも書いてあったように思います。それが、本書を読んで物化やおとぎ話風の内容とも関係があることがわかりました。

で、幾つも重要そうな哲学用語が登場しますが、それぞれ、かつて私が学んだ先生も常々言ってたし、先生の著書にも盛んに書かれていることで、私はワードは大体知っているけど、このように繋がって話が紡がれて展開して行くのか、という感じで、なるほどと思いながら読みました。

これ、事前に哲学の専門用語を知っているか知っていないかで、読める人と読めない人が出てくる可能性あります。哲学用語、古典ギリシャ語をカタカナにして語源の綴りもついてるけど、知らない人はこれを初めて見て、何のことか想像つく人ってどれくらいいるのかな、という気はする。それに、重要度というものもあって、用語の中でも重要度のヒエラルキーがあるから、それがどれくらい重要なワードなのか判別できないことには、事前の知識の有る無しで理解の仕方も変わってきてしまうかもしれないと思う。

つまりこれは、割と専門書と考えた方が良いです。しかし、一見おとぎ話風なので、一般の人も読めてはしまうとは思うのだけど、ワードをきちんと正確に捉えて、それそれの重要度を認識して読まないといけないと思うし、古代ギリシャ哲学の原点とも言える、存在とは「制作されてある」ものであるという特有の一つの見方があることを常に頭に置いておかなければならないとも思う。

更に、最後の章「技術とは何だろうか」は、やはり戦争の影響が色濃く感じられました。「総かり立て体制」なんていう言葉が出てきますが第二次世界大戦という時代背景が強く影響していそうです。

比較的、現代に近い哲学者とは言うものの、現代は当時には無かった技術、例えばインターネットに留まらず人工知能が台頭するなど、そうした現代の諸事情と照らし合わせて、このハイデガーのおとぎ話風の説明がどこまで現代に通用するのか、適用可能なのか、という点では、もはや怪しくなってきている感じは否めません。ハイデガーの時代はまだ物がありましたし、物が優勢の時代でしたが、現代の先端技術においてはもはや物という媒体を介さない場合が多くなってきている。古代ギリシャ哲学が言及できない領域に入ってしまっています。(ハイデガーは20世紀に生きた人なのになぜ古代ギリシャ哲学と言うかと言いますと、それは、ハイデガーが研究していた分野が古代ギリシャ哲学だったため、話が全部古代ギリシャ哲学ベースになっているためです)

逆に、ハイデガーが現代にまだ生きていたとしたら、現代の科学技術の状況を無理矢理にでもギリシャ哲学の観点から見てどのように分析するのか、と推察し想像し、ハイデガーの気持ちになって考えながら読むしかないな~、と本書を読みながら思いました。

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