Qu'en pensez-vous?

空間について考えます

山本理顕さんの「権力の空間/空間の権力」を読みました

講談社選書メチエ597
山本理顕 著
「権力の空間/空間の権力 個人と国家の〈あいだ〉を設計せよ」

を読みました。

読み始めて数時間で読了してしまう程、面白かったです。
最初、哲学者ハンナ・アレントの話から始まり、面白さに引き込まれ、ノンストップで最後まで読めてしまいました。
ハンナ・アレントは私は一度も読んだことが無かったので、その著作中でそんな建築的な議論をしていたのか、と驚きもしましたし、古代ギリシャのことに精通しているのは、ハンナ・アレントマルティン・ハイデガーと親交があったわけだから、ポリスの都市空間についての知識を持ち合わせていても不思議は無いというか、そうだったのか、と思いました。ハンナ・アレント考察から山本理顕さんがお話を展開して行く感じです。
山本理顕さんは、建築家原広司さん系統の建築家さんということで、最初から「閾」というワードが登場し、原広司さんのお話に慣れている人は非常に読み易くなっていると思います。
その次には、世界集落調査の、各集落のお話も登場し、集落について本家の原広司さんによる解説とはまた違った解説が読めます。山本理顕さんは比較的良く「美しい」という言葉を使われるように思いますが、それが私は好きで、私も当ブログ内で「美しい」という言葉は多用する方だと自認していますが、それもあって読み易いし理解し易さも増します。
全体を包括する概念としては、「物化」というのが全体を貫いているようでした。これもハンナ・アレントからのようですが、この「物化」の理解が重要そうですので、ちょっとこのブログ記事を書くために、急いで読んでしまったので、再読したりハンナ・アレントの原書にあたったりして「物化」について良く考えたいと思います。

あと、思うのは、以前、旧ブログを運営していた時にも、山本理顕さんの著書のレビューを私は挙げていたと思うんですが、多分、「新編 住居論」の感想を書いたように思います。その著作の中では、ソフィスティケイトされたもの、という言葉があったと思います。やたらソフィスティケイトと出て来ていた記憶があります。その本の時と同じで、どうしても山本理顕さんは「生殖」と「住宅」を結び付けたい傾向にあるらしく、どうしても話がそっち方面に行くというか、どうしても気になる様子でそのピリピリと敏感に反応するような書き方は今回の著書でも健在で、建築の空間内には必然的に生殖があると言いたいようでした。しかし読むとわかりますが、ハンナ・アレントと結びつけるとこれが魔法のように、きれいな話にまとまります。

官が住居の在り方を決定してしまい、例えば団地等へ入居する人々の人生に影響してしまう点など、なるほど、と思ったし、これまで考えたことも無かったし、都市形態と建築空間のプライバシーを重んじる密閉性が様々な社会問題を生んでいて、それは孤独死に留まらず、この書籍には書かれてはいないことだけれど、引き籠もりなどの問題も建築空間が大きく影響している可能性もありそうに読めました。

それにしてもこの世代の建築家さんというのは、やはり元気があるというか、社会をより良い方向に変革させようと運動することに対して熱意があるというか、つくづくそういう意気込みを感じます。現代の若い世代の人達というのは、夢も希望も無くなってしまっていると思うし、もはや打ちのめされて最初から社会体制に飲み込まれ敗北してしまっているのが常ではないだろうか。
特に、「世界は過去にあるのではない」「空間は未来の住人のために・・・」というメッセージは力強く響きます。
もっと早く読んでおけば良かった、と思う書籍でした。2015年の本。

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