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「建築に何が可能か-有孔体と浮遊の思想の55年-」展を見ました

文化庁国立近現代建築資料館で開催中の建築家原広司さんの展覧会「建築に何が可能か-有孔体と浮遊の思想の55年-」に行って来ました。
私はガイドツアーには参加していません。ただ展示を見ました。

私が行った時の来館者層は、若い男性の方々が多かったようですが、女性の方々もいました。建築の展覧会というと年齢層高めの男性ばかりなのではないかなあ?と思っていましたが、学生さん~20代30代くらいの若い年齢層の方々が大半のようでした。

展示と、スクリーンに投影されている動画があって、動画が結構長くて面白くて、動画で原広司さんのお話を聞くと展示内容をより深く理解できると思いました。展示室の内部で流している動画と、外側のスペースにある動画はトークの内容が違いました。
展示室内部の動画、最初のうちは、原さんが手に握りしめているの何?えっ水色のライター?と気になって気になって仕方なく、傍らに置いてある茶色の鉢に立て掛けられた煙が上がったタバコが高級そうなニットに接触するんじゃないかと気になって仕方が無かったんだけれども、トーク内容が面白いので、次第に全くそんなの目に入らなくなって話に聞き入りました。

展示の方は、手書きの設計図やスケッチなどがありました。建築学科の学生さんや建築学科卒のプロの方々だと、専門的な感想が様々あるのではないかと思いますが、私は全く部外者なので感心しながら見た、としか言えません。製図の線が極細で、とても精密で、原広司さん特有のあの雲のような形をした「雲形屋根詳細」などは特に、あの屋根はこのようにして線が引かれたのか、と思いながら見ました。いくつもの円弧に数値も記入されていました。特に、訪問したことのある建築については設計図を見ながら、また建築を見に行きたくなるような感覚が呼び覚まされました。田崎美術館にまた行きたいと思いましたし、設計図を見ながら、以前田崎美術館に行った時の空間体験が蘇りました。美しかった白い光。そのように展示を見ながら、そう言えば私はまだ一度も飯田市美術博物館には行った事が無かったことに今更ながら気付かされました。他には、やはり設計図で最も魅力的なのはヤマトインターナショナルではないでしょうか。ヤマトインターナショナルは実際に見ても綺麗、設計図で見ても綺麗。京都駅は谷の建築であり門の建築でもある。札幌ドームの内観スケッチとか、そういうスケッチ類もすごく見応えありました。
そして何と言っても、とどめは展示室中央に置かれた「有孔体と浮遊の思想2022 M₀」だと思います。
この模型はすごいです。動画で、お話を聞いてから見たら、「は~っ、なるほどそういうことか」と思いました。透明のアクリル板が空なのだそうです。つまり、空に対して全ての建築が開口部を向けており(空としてのアクリルボードの1平面ですべての建築の孔をカバーするようになっている)、それが今回の展覧会のテーマでもあり、この建築家さんの継続的テーマでもある有孔体としてあり、この模型がまるごと有孔体を示唆している、というふうになっているようです。普段、我々、空って何か仕切りがあるわけではないから、あまりはっきりと気付きませんが、概念としてはこのようなことなのだな、というのが模型を通してわかる感じです。動画でも「塔」という言葉が出て来ていたと思いましたが、塔の概念とか、有孔体はそういうものにも繋がって行くもののようにも思いました。
動画では、「M₀のMは何ですか?」と原広司さんお仲間の偉い先生が質問されてましたが、原さんは多様体と答えてましたので、(私はメモしなかったので帰宅してから記憶頼りですが)トポロジーとかホモトピーホモロジーという話で出て来ていたので、MはmanifoldのMと動画で言っていた筈と思います。
アリストテレスの血が流れている、というのは本当にそれは書籍などを読んでいていつもそう思うというか、アリストテレスそのものであるかのように錯覚する程だけれど、サルトルは私は全く気が付きませんでした。
帰宅途中、突如、あの模型の黒い雲のようなものが頭に浮かんで来て、そう言えばあの模型に覆いかぶさるようにあったチャコールグレーの不定形の塊のオブジェのようなものは、あれは一体何だったんだろう?と頭の中に湧き上がって来ました。まだ形になっていない『YET』な作品群のメタファ―なのかもしれないし、可能態の塊なのかもしれないし、一番素直に理解するなら、展覧会のサブタイトル通り、浮遊の表現そしてM₀でしょうか。と、ここまで考えてみて、そう言えば、動画の中で「かすみのようなものを作る」「かすみのような建築」と2回くらい「かすみ」という言葉が出てきたことを思い出しました。そんなの初耳だとその時は思ったのだけれど、帰宅して確認してみたところ、書籍「空間〈機能から様相へ〉」の序で、既に「かすみ」が出てきていました。様相論的現象の一つとして「かすみ」が挙げられていました。とすると、そのレリーフ、アクリル板による模型にあるチャコールグレーのヴォリュームは、かすみであり様相に関わる現象のメタファーであるのかもしれません。
新建築の住宅特集にこのレリーフ模型など載っていたようだったので、それを見るとより良くわかるかもしれません。

(追記 新建築の住宅特集2022年12月号見ました。取り壊された伊藤邸にかかっていた作品を模型に再構成したもの、という感じで書いてありました。そう言えば、多分動画の中でもそう言っていたような。人の話を聞いていない節、浮上。展覧会の内容が盛り沢山で、いっぱいいっぱいでもう入らないくらい考え込んでしまっていて頭が一杯でした。事務室に行けば図録ももらえたことはわかってはいたけれど、かなりもう頭がパンパンだったので、ぼう然と色んな感想が頭を駆け巡る中そのまま帰宅となりました。もう1回見に行くと本当はベストかも。)
書籍「建築に何が可能か」については、ずいぶん昔に図書館で借りて読みましたが、とても良い内容だったと記憶しています。結構、荒削りの激しさを感じるような文章だったと思います。

原広司さんの理論の中で最も世の中に普及したのは、梅田スカイビルの頃に良く言われた『空中庭園』ではないかと私は密かに思っているんですが、近年のあらゆる建築が空中テラスを兼ね備えるように出現して来ていると思います。でも多分、『空中庭園』は形而上学的なものであるかあるいはもっとずっと高度にフィクショナルなものであって、たかだか『屋上』や『空中テラス』と呼ばれるものとイコールではなく、テラス程度では有孔体とは呼べない、ということなのかもしれませんので書き方は控え目にしておきますが、都市の景観、特に中間領域の創出や部分緑化に対してきっと建築的な貢献を果たされてきたのではないかな、と思ったりしています。

大変面白い展覧会でもあり、少し切ない気持ちになる展覧会でもありました。原さんもお年を召されて、非常に年月の経過を感じました。

展覧会会期は3月5日までとのこと。というか、自分自身、見に行くのが間に合って良かったです。最近忙しく、とんでもない酷い目に遭っていて、展覧会どころでない場合が多いので、この展覧会が行われていることに偶然気が付いて、見に行けただけでも私としてはラッキーでした。

原広司さんの若い世代への影響力は強力に思いました。若者たちが原広司さんの提唱を引き継いで行くに違いないと思います。

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