Qu'en pensez-vous?

空間について考えます

考えていると日常生活に支障を来たすヘラクレイトス

大変久々に建築雑誌を見る機会があり、GA JAPANの方は少ししか見れなかったのですが(巻頭の藤本壮介さんのエッセイを大変興味深く読みました。何と医療従事者のご家族。初めて知りましたが、このことで一気に親近感を持ちました)、新建築の方は数冊分見ることができました。新建築6月号だったはずですが、建築家の原広司さんによる追悼文が掲載されていました。

この本に挟まっていた「住まい学体系栞」に、原広司先生の先生である内田祥哉先生によるこの本の推薦文らしきものがありました。

「住居に都市を埋蔵する」 原広司 著 - Qu'en pensez-vous?

その文頭にヘラクレイトスと出てきていたので、折角だからそう言えばと、恐らく希少品であるにも関わらず普段は開きもしない岩波書店の断片集を出して来てヘラクレイトスの断片をおさらいしてみました。
断片の翻訳は田中美知太郎さんの借用と脚注にあるので信頼できると思います。(美知太郎とは、常々思うけど、プラトン的なお名前だ)それで、きっと以下のことは知っていなければならない事実だったのだろうけれど、あることに気が付きました。
草創期の古代ギリシャ哲学者ヘラクレイトスの『万物は流転する』、これは現社や倫理に出る高校生の暗記事項ですが、ヘラクレイトス本人の言としては、ズバリその言葉そのままで述べているものは見つからないようなのです。断片集を見ても載っていないので驚愕しました。私が持っているのは薄めの断片集なので、もっと分厚い完全収録版のようなものには載っているのでしょうか?確かに断片集以外の、私が学んだ先生とそのお仲間の先生方の共著数冊には、ヘラクレイトスの項目の所にはきちんと『万物は流転する』と記載があります。不思議に思ってウィキペディアも見てみたところ、プラトンが引用したがヘラクレイトスの言には無い又は失われたと書いてあり、他にもネットで見つけた嶋崎 隆 一橋論叢のヘラクレイトスの<リヴァー・パラドクス>という文献中には、最近の研究ではヘラクレイトス自身が直接に述べた言葉とはされていない、とありました。
断片集の言説をすべて総合すると『万物は流転する』という意味に取れるようには思いますし、岩波の断片集の中で、『火』よりかはずっと『河の比喩』が流転のイメージにはまっており、ヘラクレイトスの哲学を圧縮したキャッチコピーとして現代まで言い伝えられているものとすると良いかもしれません。

そんなわけで岩波書店の断片集を見てヘラクレイトスの言説について改めて考えていると、大変な時間を浪費してしまい、しかも考えても考えても上手く考えがまとまらず、大変困っています。しかしながら、万物流転に捉われ過ぎていると見失うヘラクレイトスに関するより重要な事象が多数ある、ということはわかりました。意外と『ロゴス』が重要です。しかも哲学の草創期とは思えないほどの最先端哲学を主張していたとしか思えず、『一つのものが相反するもの、またその逆』の項目は建築家の原広司さんが仰っている『非ず非ず』を思わせますし、『一つと凡て』の項目は『部分と全体の論理』を連想させます。そしてやはり『河の比喩』となると、マイクロデュレイションに出てくる『様相』を表す記述一覧が想起されます。しかしよくよく考えてみるとやはり、『非ず非ず』とは違うと思うのだけれど、一見すると似ています。このヘラクレイトス矛盾律を侵した不思議な弁証法を考え続けていると、もう延々と時間を喰い、日常生活に支障を来たすほどで、あるところで見切りをつけてお仕舞にしてしまわないと、どうしようもありません。『非ず非ず』とは少し違うにしても、これまた困った問題で、ヘラクレイトスのせいで本当に貴重な時間がどんどん過ぎてしまいます。また後々のブログ記事で、何とか自分なりにヘラクレイトス弁証法について何とか考えて、結局のところ考察を放棄した(!?)形にできるといいのですけれど。というか、書けるのか、という感じですが。誤りの無いよう記号とかは使わないようにします。 

ヘラクレイトス再考 - Qu'en pensez-vous?

「住居に都市を埋蔵する」 原広司 著 - Qu'en pensez-vous?

「非ず非ず」を西洋の言い方に置換してみると?(2) - Qu'en pensez-vous?

デカルト的視点で「非ず非ず」を考えてみる - Qu'en pensez-vous?