Qu'en pensez-vous?

空間について考えます

空気の設計とは

いつも意識しているつもりなのですが、建築とは全く無関係の平凡かつ雑用や心配事の多い日々の中では思い至らないことも多く、多分、当ブログのコアな読者様方は、空間についての話題についてもっと書きなさい、と思われているのではないかと思うので、少々反省して、空間に関するトピックについて着想を得ようと、建築家の原広司さん著の「集落の教え100」をめくってイメージを膨らませてみました。

「集落の教え100」の[92]扉と窓、の文章と写真を見ていて、どのような光を望むのか、ということを考えました。このことは、一般論的な話ではなく、形而上学的な意味での話なので、この書き方で果たして伝わるのかどうか。
どのような光を望むのか、ということがとても重要な事ではないかと。
例えば、神聖な光、と一口に言っても、クーポラからの光なのか、聖堂のステンドグラスから差し込む光なのか、はたまた朝もやの中に浮かび上がる神社のように曇り空によって照らされたぼんやりとした光なのか、光の様相も一様では無い。
[92]扉と窓、の写真にあるように、窓に装飾があったりすると、そうした周囲のディテールによって、光がそれぞれ別の世界像を表出し始める。
そういう意味では、現代建築では、例えば安藤忠雄さんの建築などは、光線をコントロールしているだけでなく、光の性質や、空気感を建築によってデザインしているとも取れる。一見、安藤忠雄さんの建築は均質空間的であるかもしれないのだけれど、光が神聖な何かを表現している。ミニマリスト的な光、禅的な光、浮遊感など。
と、ここまで考えて、はたと疑念が生じて来たこととしては、当ブログで巡って見て来た建築物において体験可能な「光」とは、まさか均質な光を表現していたのではなかったか?ということ。まさか、「光」すら均質になってはいないか?ということ。そんなことを突然思いつきました。
これまで、均質空間を打開するという、そういう方向性でポストモダンの建築は進行して来たのだと思う。しかし、光についてはどうなったのだろう。そもそも、光、というのが曖昧表現であって、それは生の自然に属するものなのだから、それは言うべきことではないとか、それよりも空間がどうであるかの方が問題だ、という見解が大多数なのかもしれない。
しかし、ただ光が透過すればOKというものではなく、そこのところの感覚的なものが、もっと研ぎ澄まされるべきなのかもしれない、と思いました。
例えば、住宅メーカーのCMなどでも良く見かけるような、住宅に差し込む光線を含む一風景というのは、平和な日常、健やかさ、楽しみ、愛、ほのぼのとした時間、などを表現しているとは思うものの、人生とは果たしてそういうものだけで成り立っているのだろうか。もっと別の次元があるのではないだろうか。アットホームさや素朴さや豪勢さ以外の、まったくそれとは異なる「光景」というのが、もっと多様にあるのではないかと思える。それを非日常と言い出すと、そこから派生して、虚構性といったかつて良く聞いたような表現が思い浮かんで来るが、それを考えると、現代は一昔前よりも、我々の想像力が退化してきているようにも思う。綺麗さ、端正な美しさに慣れ感覚が麻痺し、返って想像力や感受性が鈍っている可能性がある。
 祈りの光や禅の光などの、肯定的か中庸な性質のものばかりではなく、ネガティブさを帯びた光というものもありうるとも思う。クールさだったり、ストイック的だったり、厳しさだったり、氷のような、隔絶された、ということもあるかもしれない。
 私自身が望む光を考えた時に、天使が舞う天井画にあるようなクリーム色の光を真っ先に想像した。バニラアイスクリームのような色をした光。この世のものでは無い、救済がそこに待っているような少し温かみのあるクリーム色の光。
 実際には様々な場合が考えられる。何を、どんな光を望むかによって、[92]の開口部の開き方や外部とのつながり方も変化に富むものになるのだろうと思う。つまり自然の光線とは、人間の知覚を通過した後には一様では無くなり、外部の何と繋がるか、何を切り取りたいのかによって、その繋がり方において光は均質ではなくなり、雰囲気やテイストを帯びてくるのだということになる。それはただのインテリアの工夫といった次元のものではなく、新しい何か、ライフスタイルといった軽々しいものとも異なり、より本質的な問題と関わっているように思える。
そしてそこから、[36]空気 空気を設計せよ、という項目につながっていくものなのかもしれない、と思われる。現代の都市はどのような空気をまとっていて、近未来にはどのような空気を帯びた都市になって行くのか。ガラスの建築を通して光がただ透過され、益々建築の均質化が進んで行くのだとしたらそれはきっと好ましいことではない。

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