Qu'en pensez-vous?

空間について考えます

大地の芸術祭について『日曜美術館「大地に根ざせ!~越後妻有 里山とアートの20年~」』を見ました

NHKEテレの日曜美術館「大地に根ざせ!~越後妻有 里山とアートの20年~」の初回放送を見ました。再放送は9日日曜日夜8時となります。

大地の芸術祭というものが行われているということは前から知っていましたが、過疎地域の悲しい町おこしに思えて、これまでまったく興味を示して来ませんでした。ところが、以下の記事でも書いたように

(→ トリエンナーレ開催中のキナーレ(設計 原広司) - Qu'en pensez-vous? )、

夏の間に家の者がグループ旅行で大地の芸術祭に行ってきたことから、一体どんなところに行ってきたのだろうと思い番組を見てみました。
家の者が撮ってきた写真や土産話からある程度はわかっても、アートですので「見る」のが一番わかりやすいでしょうから、テレビ放送してもらえるなんて有難いです。

番組冒頭、MCのお二人が駅から出てきて、男性の方、お名前出てましたが、小野正嗣さんって、フランス文学者で芥川賞作家の小野正嗣さんですよね。こんな仕事してらっしゃるんですね。小野正嗣さんの本を読んでみたいと内心ずっと思いながら時間だけが過ぎていました。今度読みたいと思います。

大地の芸術祭は、3年に1回開催されていて今回7回目なのだそうです。
新潟県十日町市の農村地帯にて、田園風景の中にインスタレーションが点在する形の展示となっているようです。廃校や拠点施設などの展示利用もあるとのこと。
番組開始後数分の辺りで、原広司さん設計の建築、越後妻有里山現代美術館キナーレ、水盤をコアとした囲い型建築の内部空間の様子を見ることができました。

トリエンナーレ開催中のキナーレ(設計 原広司) - Qu'en pensez-vous?

この番組中で、私が最も興味を持ったのは、磯部行久さんの作品についての部分でした。
番組ナレーションによりますと、磯部行久さんはアメリカに渡り、地質学気象学を網羅するエコロジカルプランニングを学んだそうで、「地域を明らかにすること」が重要なテーマらしいです。明治以降、川の流れが人工的に変えられてきたことに着目し、「川はどこへ行った」という信濃川の元々の流れを田んぼに示した作品が1つ目。2つ目は、昭和の時代にはこの地域は水力発電が行われていたのだそうですが、水力発電の衰退と共に過疎化が進んだという経緯を元に、水力発電用の導水管をモチーフとした「サイフォン導水のモニュメント」という、地中の280メートルに及ぶ管を可視化した作品が紹介されていました。
その他にも、アーティストの方々が地域の方々と交流し、交流の中で作品を作っていく過程なども取材されていました。

番組を見ながら、結局また私は、だんだんと得体の知れない気持ちに陥って行きました。何と言いますか、実は私もその昔、美研に通い美術をやっていた(強制的にさせられていた?)時期があります。しかし、ある時を境に全て辞めたんです。美術の世界から足を洗い、つまらない常識に縛られた鋳型のような人間の世界に仲間入りをしようとして現在に至ります。今でも私の親はそのこと(美術をやめたこと)を怒っているようで私にいろいろ言って来ます(普通逆じゃないかと思うんだけど)。
なので、実は番組を見ながら苦しい気持ちになったのは事実ですし、社会から逸脱した人間が集まる最終地点が芸術の世界なのではないか・・・などという、再び差別的な視点で番組を見てしまったのは事実です。
アーティストの方々の作品制作の様子を見ながらそう感じました。

社会から逸脱した人間と書いてしまいましたが、今でも私は社会から逸脱しているに違いありませんので、芸術の世界から離れたつもりでいたとしても人間の本性はそう変わりはしないと言えるかと思います。結局どうやってもどのように生きても、生まれ持った性質上、自分が社会から自然と逸脱してしまうことには変わりがありません。

個人的な悩み事はひとまず置いておくとして、家族が体験してきたことを番組で見られたのでそのことについては満足しました。

番組では、農家の方々は、田んぼにアートを設置することに同意している、とありましたが、農家の方々は、長い時間をかけてこの芸術祭に理解を示し、好感触を抱き、協力体制を築いてきたのだと思いますが、今回私は初めてテレビで「川はどこへ行った」の作品を見てまず思ったのは「食べ物に異物を混入しているように見える」ということでした。
やはり、突然これを見たら、大丈夫なのだろうか、と思うのは正常な感覚なのではないでしょうか。やはり、田んぼというのはお米なのだから、食べ物にアートが刺さっている状態は、ちょっとびっくりします。塗料なども、顔料には有害物質が含まれるものもありますから、展示期間2か月間くらいで雨で有害物質が田んぼに流れ込んだりしないのか、と疑問には思いました。
やはりお米は日本人にとっては神聖な位置付けにあるものでしょうから、田んぼに直接作品が刺さっているのは、見ていてあまり良い気分はしないというか、少しドキッとします。でも「川はどこへ行った」のコンセプトはさすが、秀逸、と思いました。
田んぼの稲の緑を背景にしてアートが点在しているその風景も、予想外に良い感じがしました。

ただ、そういった農村地帯ではツツガムシ病があるとも聞きます。暑いですのでツツガムシでは済まず、マダニが北上しているなんてこともあるかもしれませんし、デング熱などももう来ているかもしれません。家族の出発前は実はそのことを心配していましたので、主催者サイドから、そういった害虫についての情報もあると助かるのに、と思いました。情報が無いので、虫よけスプレーを持たせてしっかり噴霧してもらいました。都市ではなく、田舎というのは、そういった虫の危険もあるのではないかと思います。

家の者は、大満足で帰ってきました。グループ旅行ですので楽しかったのでしょう。また行きたいとのことです。夏休みの良い思い出になったことは間違いありません。

9月17日まで開催されているそうですので、興味ある方々はどうぞ訪れてみて下さい。家の者によりますと、思ったよりたくさんの人たちで賑わっていたそうです。コンビニなんて無いのかと思ったら、ちゃんとコンビニがあったというので、聞いて驚きました。

後続記事では、大地の芸術祭の今回のコンセプトの1つが「方丈」だったようですが、建築家の原広司さんが著書の中で述べている「方丈の空間」や「縮小の美学」について、独自考察して書いてみようかと思っています(上手く書くことができなかった場合取り止めとなります)。

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