Qu'en pensez-vous?

空間について考えます

HIROSHI HARA:WALLPAPERS の補論2「情景図式と記号場」後半部分を再読してみました

HIROSHI HARA: WALLPAPERS
空間概念と様相をめぐる<写経>の壁紙  
原広司 著 現代企画室

建築家原広司さんのWALLPAPERSという書籍、既に当ブログでは紹介済みですが、

(→原広司 HIROSHI HARA: WALLPAPERS - Qu'en pensez-vous?

ふと思い立ってパッと開いた場所、補論2「情景図式と記号場」(4)(210頁)~(9)(224頁)を再度読んでみました。大変面白かったです。

一番最初に、補論2「情景図式と記号場」(4)を読んだ時は、この章の冒頭にも書かれてあるように『これまで領域分割図を「空から見た平面図」として説明してきた』のに対して、(4)では「空から見た平面図」として例1~例4が説明されているのではなく、普段の我々の目線から見る角度からの例1~例4の図だったので、ギョッとしたというか、何事か!?とびっくりしていました。

しかし再度読んでみると、「近傍」の話の流れとしてはこの目線は確かに適切なんだろうなと思いました。「近傍」というのがものすごく重要な概念なのだろうと思いますし、原広司さんが建築家として思考の対象としている空間の範囲がどこまで及ぶものなのか、そのスケール感のことだと思いますし、物理学的空間や数学の幾何学群論位相空間におけるような空間の記述方法ではなく、建築デザインや心象的空間やいわゆる様相的空間にまつわる記述方法というのがこれまで確立されてこなかった分野であるために、柔軟に検討されているのだと思います。
幾何学など、限定的範囲の事象だとものすごく記述が上手く行き、学問として成立しうるまでに高まるのだと思いますが、建築デザインや風景、様相的空間の記述となると、記述と言っても非常に困難を極めそうな雰囲気が最初からあります。
「近傍」については、補論1マイクロデュレイションに詳しく書いてありますし、補論2「情景図式と記号場」(6)以降でも書かれています。近傍と、情景図式、世界風景はどうしてもセットで出て来るもののようです。その他の原広司さんの書籍中にもしばしば「近傍」は登場しますので、有名な概念だと思います。

その「近傍」の概念を頭に置いた上で、集落の「世界風景」から取り出された情景図式例1~例4の図についての解説が211頁~しばらく続きます。
補論2「情景図式と記号場」(5)の(2)は、なるほどこういう風に解釈するのか、記号場というのはこういうことなのかということが理解できる箇所だと思いました。
で、読み進みていくと、補論2「情景図式と記号場」(9)で人の移動の様子が式でまとめられています。これも面白いのですが、空間内での群衆の流れについての記述が続き、その一番最後の文章に、「アトラクター」「リペラー」という言葉が出てきます。式にあった「吸い込み口」と「湧き出し口」が、それぞれ「アトラクター」「リペラー」に対応しうるものであるということがぼんやりと書かれています。このことを、私は今までハッキリ認識してこなかったため今回大変興味深く感じました。さらに情景図式例1~例4の記号場におけるそれぞれの記号場を構成する要素、例えばモスクや塔などがアトラクターとしてみなすことができたりするのも、なるほど、そういうことか、とわかりました。
リペラーというのは跳ね返すものだけれども、逆にリペラーがアトラクターともなり得るということが一番最後に書かれて小論が終わっています。大変、原広司さんらしいと思いました。
困った問題は、「ベクトル場」という言葉が登場していて、註12に線形微分方程式で示すことができるなどと書かれているのが戦々恐々とするところではありますが・・・。

以前、ル・コルビュジエの建築のことについて書いた時だったったと思いますが、私は「引っ張られる」という書き方をしたのを覚えています。確かサボワ邸のスロープのことだと思いますが、このスロープがあることによって屋上庭園に引っ張られる、と書いたと思います。
ある建築的仕掛け、建築的要素が配置されていることで、そちらの方向に誘引される、動線が引っ張られること、それがきっと原広司さん風に記号場的な表現をするならば「アトラクター」と呼ぶべきものなのではないかと思いました。

記号場の謎、だんだん解けてきましたでしょうか。記号場については今までも少しは書いて来ましたが。
横から見るなんて衝撃的でしたが、この方法なら情景図式、世界風景と絡めて首尾良く説明できるのですね。

その他には、上記以外の大筋の話以外で、読んでいる途中でまたびっくりしたところがあったのですが、補論2「情景図式と記号場」(8)の(ハ)の最後の方。抜き書きさせてもらいます。
「・・・略・・・。それに対して《WALLPAPERS》は、アリストテレスの『形而上学』や『自然学』の部分が、2014年のある夕暮れ時と、ある一瞬出会うことになる。・・・略・・・」
!!!う~ん何ともロマンチックですねえ。

また随時 HIROSHI HARA: WALLPAPERS 読んで考えていきたいと思います。

ついでに、自分のHIROSHI HARA:WALLPAPERSについての過去記事を読んでみましたが、わりと面白いですね(自画自賛)。そちらも是非どうぞ。↓

原広司 HIROSHI HARA: WALLPAPERS - Qu'en pensez-vous?

「空間<機能から様相へ>」 - Qu'en pensez-vous?

『ディスクリート・シティ』 原広司 - Qu'en pensez-vous?

「集落の教え100」原広司 著 彰国社 - Qu'en pensez-vous?

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