Qu'en pensez-vous?

空間について考えます

「建築―あすへの予感 離陸への準備」彰国社 

「建築―あすへの予感 離陸への準備」彰国社 刊
原広司伊東豊雄石山修武山本理顕高松伸 著

上記建築家さんたちの対談集です。

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目次は以下の通り。
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予告 

相互批評/五つの討論
可能世界への誘導と展開
清浄なる世界風景への誘導
自由への建築的構想
パフォーマンスの記念碑をめざして
精神史としての建築

座談
空中庭園と宇宙船

包括的批評
他者たちの会話への測深
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相互批評の下欄には、対談で用いられたキーワードに対する脚注がついていて、各概念の詳しい説明があります。

この本、大変な年代物です。
見たら、昭和61年発行と書いてあります。
実際に私がこの本を購入したのはそれよりもずっと後でしたが、当時はこうした概念的なお話が面白いと思い熱心に読んでいたと思います。物持ちが良く、今までずっと持っていました。

建築関係の雑誌の書籍紹介コーナーに、この本が挙げられていたのを見たことがあります。誰が紹介していたかというと、建築家の西沢立衛さんか藤本壮介さんのどちらかだったと思います。それを見た時、あっ、私も同じ本持ってると思いました。ずいぶんと私はオタクですね~、この本を持っているなんて。

現在に至るまで、建築の人たちというのは、何かと言えばシンポジウムだとか座談会をしているというイメージで、建築雑誌などでもやたらと座談会を行っていますが、あれは一体何なのでしょうかね。そんなに数多く語らなければならないものなのかと思ったりして見ていますが・・・。
その座談会の原型がこの本にあるような気がしています。

というか、私としても久しぶりにこの本を見てみたので驚いていますが、昔は皆さん元気があり夢があり、世の中も自由で活気があったのですね。1980年代というのは、皆が夢を持てる時代で、自由な良い時代だったのですね。
こうした恵まれた時代を駆け抜けた建築家の方々が、ポストモダン建築を世に残し、われわれはその夢の残像を見、建築空間を体験しながら生きていることになります。
建築は数十年単位で残存するため、ひとたび作られたら後世の人たちは物質的形骸だけでなくその空間概念共々、心身共にその人工空間からの影響を受け続けることになります。
残念ながら、1980年代に思い描かれた夢と、まったく違った状況が現在生まれていると思います。建築空間は夢があり自由でも、そうした建築が林立する都市に生きる我々には、夢や自由がありません。舞台は優れていても、そこに生きる人たちが以前に比べて格段に精神的に疲弊しているのではないかと思います。明らかに建築的な舞台と現代人の置かれた状況との間に乖離があります。

現代は、多くの人が夢や希望を失っていると思います。多くの人たちがとにかく生活を維持することに必死。途方もない夢など抱けない。この世界、この社会の中で何とか生き残っていくように努める、それしか考えられない。そういう状況になってきていると思います。
ゆとり世代とかさとり世代とか、それくらいならまだ良かった。正社員になるのが夢だ、とかでもまだ良かった。
もっと若い世代だと、将来ロボットやAIに仕事を奪われることを想定して、20年後30年後でも人間が就いていられる仕事を予め選択しておかなければならないなど、学校の先生からもそのように教えられ、ますます厳しい状況に追い込まれていると思います。全てにおいて余裕が無く、経済全体も悪く、世界的に政治状況もますます不安定化しています。そして広がる貧困と格差。

とにかく何もかも良くない。何もかもが良くない方向に進んでいる。でも、私たちは、何とかして、良い世界を後世に残す努力をしていかなければなりませんね。少なくとも建築やデザイン、美的なものに関しては、残すべきもの選ばれるべきものの取捨選択、淘汰は自ずとなされるだろうし、大事なものが一体何なのか、本当に大切で、本質的に価値のあるものだけが残っていくことになるのだろうと思います。

「建築―あすへの予感 離陸への準備」の書籍中で、現代の若い人たちに対して何かヒントがあるとしたら、次の部分ではないかと思います。
111頁で原広司さんが、ピタゴラス学派について語っている個所があります。
哲学的に正確に記すと、古代ギリシャピュタゴラス教団は、数学の中でも特に数について研究しており天界の音階を聞いたと伝えられます。ハルモニアです。
これについて原広司さんは、ル・コルビュジエはこれを比・プロポーションとして解釈したけれど、自分は音響として捉えたい、それが空中庭園とか宇宙船のイメージである、と語られています。
少々詩的で夢見心地な回答に思えますが、少なくとも、今手元にある岩波の専門書を読む限りピュタゴラス教団の天空や宇宙全体の音響とは、現代物理学の超ひも理論が描き出すモデルとほぼ同一内容のものではないかと思われます。
つまり、真実により近づいて行く方向で物事は動いており、何事においても如何なる分野においても真実や真理を追求する方向で動いて行けば間違いないのではないか、それだけは言えるのではないかと思います。

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