Qu'en pensez-vous?

空間について考えます

「広場」淡交社 隈研吾さん監修の「広場」論

「広場」 隈研吾 陣内秀信 監修 鈴木知之 写真 淡交社

以前、淡交社から出ている「境界 世界を変える日本の空間操作術」という本を当ブログで紹介しましたが、「広場」はそのシリーズ本のようです。

「境界 世界を変える日本の空間操作術」監修 隈研吾 - Qu'en pensez-vous?

本の帯には「グローバル資本主義の限界を見てしまった世界に対して日本の広場は救いをもたらすかもしれない。日本における『パブリックスペース』論の集大成!」とあり、かなり意気込んだ内容となっています。
その意気込み通りお値段も高めです。税抜きで2700円。

当ブログでも、少し前に、中村拓志さんの「東急プラザ表参道原宿おもはらの森」の写真を掲載した記事に、「日本人はいつから広場が得意になったの」「これからの建築はこのような広場的なものになって行くかも」などと書きましたが、まさにそれと似たような内容が取り扱われているのが、この「広場」という写真集です。

隈研吾さんの「実体への回帰」という論文で始まります。隈研吾さんは、磯崎新さんの「日本の都市空間」という論文を引用し、磯崎新さんの唱える『都市デザインの四段階説』を挙げることから議論をスタートされています。この四段階説は、新カント派の哲学者カッシーラーからの引用となっています。

エルンスト・カッシーラーは、哲学書の中では非常に読みやすい部類だと私は思っています。すごく楽に読めます。無難なことしか言わず、そろそろ結論が出そうだと思うところで急に決定的な事は言わずぼんやりとはぐらかして次の章に進む感じの、非常にずるい哲学者です。
主著は「シンボル形式の哲学」ですが、実際には「認識問題」の方がきめ細やかで長々と書かれた本でオススメです。哲学とは一体何なのか勉強したい人は「認識問題」を読むと良いかもしれないという感じの、正統派の文章を書く哲学者です。でも決して決定的な事は言わないので、やはり最後にはぐらかされます。

そのカッシーラーと都市がどう関わるのかという感じですが、いつの間にか都市の話や広場の話に移行します。

当ブログでも、時々写真を挙げている「アオーレ長岡 ナカドマ」も、この「広場」の書籍中に出てきますし、「東急プラザ表参道原宿おもはらの森」の写真もあります。他にもたくさんの広場関連の建築写真が掲載されています。

隈研吾設計、アオーレ長岡のナカドマ(中土間) - Qu'en pensez-vous?

中村拓志さん設計「おもはらの森」 - Qu'en pensez-vous?

隈研吾さんの論文に続いて、陣内秀信さんの論文も載っています。

広場に関する写真の中で、私が注意を引かれたのは、興福寺だったと思いますが、薪能の写真。
能楽は、現代では施設内で行われることが多いですが、昔は野外開催が普通だったと専門家の方から聞いたことがあります。そうした意味において薪能は、広場空間を出現させるイベントではないかと以前から思っていました。
能については他にも語りたいことがあるので、それはまた後日の記事にて。

本当に、「広場」、これだろうなという気がします。これからの建築がどのようなものになって行くかと問われたら、広場的な空間を伴った建築が主流となって行く、ということは誰の目にもはっきり見えていることなのではないでしょうか。
そして、それは意外にも、西洋的な広場ではなく、日本に昔からあったような、それを私たちは広場とは認識してこなかったけれども実はそれは「広場だった!」的な、人が自然と集うような空間的示唆に、再び視線が集まる時が来ているのかもしれないと思います。

例えばそれは、神社の縁日だったり、盆踊りだったり、薪能だったり、そういうものから着想される広場的空間かもしれないですし、例えば今クリスマスシーズンですが、街の電飾、イルミネーションが施されているエリアや、クリスマスツリーやポインセチアなどが配置されていたりする演出された空間全体が、広場と見なされるとも考えられると思います。
建築だけでなく、イルミネーションをはじめとする仕掛けを用いた集いのための境界を指し示す空間演出もまた、広場を形成し人の流れを吸い寄せ、疑似的コミュニティを形作る原動力となるかもしれません。

話は逸れてしまいましたが、こちらの「広場」という本、自由参加型コミュニティ生成や、自ずと人を集めることのできる建築空間にフォーカスした写真集となっています。

「境界 世界を変える日本の空間操作術」監修 隈研吾 - Qu'en pensez-vous?

中村拓志さん設計「おもはらの森」 - Qu'en pensez-vous?

隈研吾設計、アオーレ長岡のナカドマ(中土間) - Qu'en pensez-vous?

「集落の教え100」原広司 著 彰国社 - Qu'en pensez-vous?