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空間について考えます

「建築」で日本を変える 伊東豊雄 著

「建築」で日本を変える 伊東豊雄 著 集英社新書

第一章 都市を向いた建築の時代は終わった
第二章 近代主義思想を超えた建築は可能か
第三章 地方から発信する脱近代建築
第四章 建築の始原に立ち返る建築
第五章 市民が考える市民のための建築
第六章 歴史文化に根ざした建築
第七章 みんなの建築

最近発売されたばかりということで、書店の新刊コーナーに山積みになっていました。
帯に、笑顔の伊東豊雄さんのお写真が大きく載っていて目を引きます。

読み進めていくうちに、本当に伊東豊雄さんていい人なんだなあと思えてきます。
とても、いい人です。心がまっすぐで、人に対する思いが強いようです。
例えば、隈研吾さんの本など読んでいますと、こんなことを書いては失礼に当たるかもしれませんが(すみません)、「何かこの人、世の中に恨みでもあるの!?」と言いたくなるような、少々斜に構えたような心持ちを文章から感じることがあります。だからと言って悪い人とは思いませんし、テレビなどで拝見する限りサクサク楽しそうにしゃべっておられるし、お人柄がどうとかいうより「売れに売れている建築家」としか見ていません。
ですが、それに対して伊東豊雄さんは、本当にいい人なんだなあと、こちらの本を読むとわかると思います。建築のことを書いているのだけれど、なぜか伊東豊雄さんの人柄について暗に書かれたような本になっているという印象です。

第一章から、現在の社会情勢と建築の状況について、まるでテレビのコメンテーターのような平易な語り口でお話が進んでいきます。とてもわかりやすいし、恐らく大勢の人がここに書かれていることと似たようなことを考えているはずで、多くの人の意見を代弁されているかのようでもあります。

以下、第二章以降、強く印象に残った個所をピックアップします。
50頁、エネルギー問題のところで、均質空間つまりオフィスビルのような空間で仕事をしている人はそうでない人に比べ遥かに多くの二酸化炭素を排出している試算になる、というところ。均質空間は、地球温暖化を助長する空間ということになりますね。現代都市は莫大なエネルギーを必要としていて、それによって原子力災害も起こった。私たちはあんな酷いことが起こったというのに、依然として同じことを続けています。
105頁、二拠点居住という新しい暮らし方、というところ。都市以外の地方にもう一つ家を持ち暮らすというライフスタイルらしいです。これは一昔前の別荘を持つというスタイルとは少々異なるもののように読んでいて思います。でも実際には、このライフスタイルは、私はちょっとずるい、と感じます。やはり都市生活を完全に捨てきれないのであれば、都市というものに何物にも代え難い価値があるのではないかと思ってしまいますし、そこまでしてでも離れられない都市の魅力とは一体何であるのかというところが重大な問題のように思います。
187頁~188頁にかけて、アトリエ派建築家の存在意義について熱く書かれてあります。ここの部分が、この本の中で最も伊東豊雄さんのパッションを感じました。

テレビの情報番組で社会情勢についての現状を吸収する感覚で読めますが、私が思ったのは、今まだ存命中のたくさんの高齢者の方々が、そのうちバタバタと亡くなった時、日本中が空き家や空室だらけになり、人口も減り、そうなった時に(今から20~30年後くらいの未来)、一体日本がどんなことになるのか(都市の空洞化、廃墟化、地方のより一層の過疎化、無人化など・・・)、その時、日本の建築の状況はどのようになりうるのか、そういうことについて、私は知りたいと思っていたけれど、それについては一切触れられていませんでした。その点が少々残念でした。

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