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「紙の建築 行動する」 坂茂 著 岩波書店

「紙の建築 行動する 建築家は社会のために何ができるか」

 坂 茂 著 岩波書店

プリツカー賞受賞の社会派建築家である坂茂さんの本。こちら、文章だけでなく建築写真も豊富に載っています。

以前、NHK教育テレビの夜遅い番組に坂茂さんが出演されてしゃべっておられるのを、偶然見たことがあります。その番組の印象では、寒くならない面白い冗談が言える建築家さん、ということでした。面白いことを言って、だいぶ聴衆を湧かせていました。しかも英語で。坂茂さん=面白いおじさん、というイメージがすっかり出来上がってしまいました。

こちらの本、いろいろと内幕がわかります。
大変そうです。建築家ってこれほどまでに過酷なの?移動とか全部自腹なの?など疑問は尽きませんが、とにかくこの方は行動が早いですね。どうしたのというくらいに。

熊本地震の時も、坂茂さんはまた避難所の体育館とかにパーティション作っているのかな?と思いながらニュースを見たりしていたんですが、ぜんぜんそのようなものが映らないのでどうしたのかなと思っていましたが、やはりありました。天皇皇后両陛下が熊本を訪問した際のニュースで、坂茂さんの間仕切りと思われるものが体育館内の映像にありました。やはり、天皇皇后両陛下の視察には、美しく整った避難所を選ぶのだなあと思いました。
しかし、この本では、そうしたパーティションだけでなく、災害発生後の仮設住宅の建設を、秘密裏に計画を練ってゲリラ的に行ったように書いてあったので、少々驚きました。

読んでいくうちに、いろいろな謎も解けます。ここではその謎解きは詳細には書きません、ぜひ読まれてみて下さい。
茶色い色の感じ、紙だからそういう色になるのは当然とはいえ、不思議には思っていました。面白いおじさんが忙しく世界中飛び回るイメージと、北欧モダンのイメージのギャップがすごい。
作品の年代にしては先端的で21世紀的過ぎる形態(例えば、SANAAっぽい円形な感じ)が、80年代~90年代の坂茂作品に早くも出現している。この形態のルーツとして・・・に原体験がある、といったことが書かれてある。すごく納得。

とにかく行動力と交渉力がある方なのでしょうね。あとはやはり面白さでしょうか。

何となく、今まで私が読んだことのある建築家の方々の書いたものと比較すると、まったく異なるものを感じました。
感覚的にまったく違う気がします。これは坂茂さんの留学体験によるものでしょうか。日本人らしくないというか、何やら不思議なものを感じました。建築の根底を覆しているとでも言うべき何かを感じたのかもしれません。

建築家というよりは、建築をフィーチャーする社会活動家だと思いましたし、災害時仮設建築設営業と言うのは酷過ぎるし違うかもしれませんが、何となく、半世紀先くらいの先進的なプロジェクトを先駆けて行っている感じがします。現代の人にはなかなか受け入れられないかもしれない。突出して未来的で先端的だと思う。
でもやはり一部の人だけでなく、もれなくすべての人に美しい仮設住宅や間仕切りが行き渡る必要があるのではないかとも思いました。

話は変わりますが、新国立競技場、坂茂さんにすることにしても良かったのでは、と私は思いました。すごく綺麗でサスティナブルですよね。どうしても建設会社と組めなかったということですよね。建設会社側に利益が出なさそう。

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