「僕の場所」 隈研吾 著 大和書房
大和書房から、隈研吾さんの本が出るなんて!?大和書房と言えば、自己啓発系の本をたくさん出している出版社というイメージで、実際、自己啓発の本とか実は私は好きで、大和書房から出てるそういった自分をより良くする系の本を過去にいくつか読んでます。ほんと、面白いんですよ。
でも、そういう出版社から、建築家である隈研吾さんの本が出るなんて、一体どうしたんだろうとかなり怪しんでいました。
読んでみましたら、大丈夫、ちゃんと建築の本でした。自己啓発の本ではありません。
これ、かなりすごい本です。
隈研吾さんの原点がわかる内容になっていると同時に、徹底的に建築批判や、建築史の隈さん流再解読が再びまたこの本でも試みられていて、やはりとても勉強になる感じです。
隈研吾さん、本当に文章書くのが上手ですごいと思う。上手い具合に現在と過去とが結びついて語られている。論理的に辻褄も良く合ってすべての出来事が、現在の建築やもの作りに向かって収束していく感じです。
でも、本当に考えさせられました。一人の人間は、その人を取り巻く多くの人たちの影響で成り立っているし、それだけでなく、何かもっと根本的な、目に見えない血筋による宿命や、家の宿命、先祖の念や、避けようのない人の運命のようなものも感じて、少々ぞっとするような気持ちにもなりました。
セパ孔にテニスラケットの話は、どの本だったか忘れましたが、隈研吾さんの他の本でも読んだことのある話です。あまり繰り返して同じ話をするような方ではないと思いますので、よほど衝撃的な光景だったのでしょうね。
「負ける建築」に書いてあった話だったでしょうか?忘れてしまいましたが、以前読んだ時には、セパ孔テニスラケットに腰が抜けるほど驚愕したかのような場面の描写で大ウケして笑ってしまいましたが、この「僕の場所」では、「醒めた」と書いてありました。
第5章サハラでは、原広司さんのお話も出てきています。なんだか原さんの話が出ると、ガラッと空気が変わるというか、隈さんの世界とは違う別世界が見えてくる感じが文章からしてきます。クリアーな視界とでも表現されるべきものでしょうか。
「小さな建築」という本のタイトルが、原広司さんの言葉に由来するというくだりもあり、そうだったのか、という感じです。
木造建築の素晴らしさについてのお話も出てきますが、大地震があると、悲しいというか残念ですね、木造建築は。平和な時はいいのですが。
書き下ろしとなっていますし、隈研吾さんはたくさん本を出されてますけど、原稿書くのどうしているのでしょうかね。何年も前になりますが、GAJAPANの中で、小説・東京だったか、そういうエッセイらしき文章の中で何やら重大な話を読んだことがありますが、絶望するほど大変だったのではないかと思いますけれど・・・。う~ん恐い。
話がそれてしまいましたが、「僕の場所」、おすすめです。他の本、「小さな建築」や近年の作品集などと合わせて読むと良いかもしれません。比較的最近の作品の話が多く出てきていますので、より良くわかると思います。