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空間について考えます

『世界で一番美しい名作住宅の解剖図鑑』

エクスナレッジムックから出ている『世界で一番美しい名作住宅の解剖図鑑』という本を見てみました。

巻末に、無断転載の禁止や、インターネットなどに載せるなと厳しく書いてあるので、ただ感想のみ書きますね。

手描きの絵というか図で、名作住宅が解説されています。ただ写真でポンと出されるのとは違って、手描きの図というのは描き手の視線を反映する部分もあり、心のこもった感じもして、温かみがあります。

紹介されている中で気に入ったのは、
「前川自邸」前川國男
「フィッシャー邸」ルイス・カーン
「マグニー邸」グレン・マーカット

がいいと思いました。

シンプルで明快なのがいいと思う。シンプルで一目でわかる感じなのが好みです。かといって、シンプルだからといって、この本の中に出てくるワンルームタイプの住宅が良いかと言ったら、そうではない。ワンルームタイプは嫌です。ただ一口にワンルームタイプは嫌だと言っても、なぜかフィリップ・ジョンソンは好きだとだけは言っておきたい。これがなぜかはわからない。

家具の配置まで詳細に書き込まれた住宅設計図を見ていると、だんだん何というか、乙女チックな気分になってくる気がするのです。何と表現したら適切かよくわからないのですが、乙女チックというか、おままごと的な気分というか、食卓やソファなど家具の配置に惑わされるというか、ここでご飯を食べて、ここでソファに座って、ここで家事をして、などとこの住宅の中で暮らすとしたらどのように自分が動くかなど、生活の様子を想像してかなり時間を費やしてしまいます。そうこうしているうちに、だんだんとまったりした、ぼんやりとした、どちらかというと嫌な、妙な気持ち(こんがらがった気持ち?)に陥ってきます。そう、妄想族になってしまうのです。

しかし!
上記に挙げた、前川國男ルイス・カーン、グレン・マーカットの設計図を見ていても、そういうまったりとした妙な気持ちにはならないのです。妄想族にはなりません。
それが、自分にとって感じの良い住宅とそうでない住宅、自分の好みの住宅と好みでない住宅の分かれ目ではないのだろうか、と思ったのですが、どうなのでしょうか。

あくまでこれは自分にとって、という主観に基づいた好き嫌いであって、もちろん、この本に紹介されている住宅は名作として歴史に名を刻んでいる作品群なのだから素晴らしいのは確かだと思う。ただ、住宅というのはパーソナルなもので、好みというものがどうしてもあるので、自分の好みのタイプを判別することも重要な事ではないかと思う。

この設計図の住宅の中で暮らすとしたら、と考えて、自分の行動を想像してあれこれシュミレーションして設計図を眺めているうちに、妙な気持ちになってくるのは、あまり自分好みのプランではない、たぶん。
自分の行動をシュミレーションしなくても、パッと見て、スパッと「これいい」と思える設計図、そういう住宅が多分自分好みなのではないかと思う。
ただ、元々、前川國男ルイス・カーン、グレン・マーカット、この3者の建築は、他の図版とかで見ていても確かに好きだった。でも、こういう名作住宅集みたいなセレクションの中から、パラパラと見ていく中で自ずと元々好きな3者をピックアップしたというのは、偶然とは言えすごい。自分の好みに一貫性があった。

他に気になったものは、
「パレク邸」チャールズ・コレア
です。
明快とは言い難いけれど、日照や気候の調節が良く考えられていて良い感じがする。

「スーパーアドビ」ネダール・ハリーリ
イラクなど紛争地帯の簡易住居というのが心が痛みますが、必要不可欠な施設ですし、比較的簡単に出来上がる住居ユニットというのは研究の必要性が高い分野なのでしょう。

一つ謎なのは、バックミンスター・フラーですね。フラードームとかあるようですが、今一つ正体不明な感じで、偉業を成し遂げたかに見えるのに誰も継承していない雰囲気がありますが、私が知らないだけなのかもしれません。

他にも、集落調査的な住居の図面も載っています。

もちろんル・コルビュジエの住宅もありますが、意外とコルビュジエって図面は複雑だ。だけれども、スロープとかで強引に引っ張られる感じがあるし、屋上庭園に自ずと足は向かうし、視線も必ず窓辺に行くので窓の方にも引っ張られる感じもある。こんな感じで、複雑なプランなんだけれども、強烈に行動を誘導する要素をたくさん仕掛けることによって、まったり嫌な気分になることも無い印象を図面から受けました。これは神業。強引に人間の行動を引っ張っていく建築。

こちら、建築関連の良い書籍だと思います。知識も得られますし、絵も綺麗で楽しめます。これから家を建てたいという方々も参考にすると良いかも。