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「集落への旅」 について

「集落への旅」 原広司 著  岩波新書

 

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原広司さんは単に建築家というだけでなく、世界集落調査を続けてこられた大学教員としての側面も大きく、集落調査の成果が建築に反映されているのだと思います。集落調査の記録は「住居集合論」という分厚い本にまとめられています。

「住居集合論」は一般向けではなさそうですが、「集落への旅」という岩波新書から出ている紀行文めいた原広司さんの書籍があります。残念ながら絶版と思われますので、図書館で借りて読んで下さいということになりますが。建築に興味のない方でも「世界ふしぎ発見!」とか、ああいう世界をトレッキングする系のものが好きな人は興味を持って読めるのではないかと思われます。読んで楽しい本ですし、物の見方も変わるのではないでしょうか。

ただ、21世紀になった現在の感覚で「集落への旅」を読むと、昔(第二次世界大戦後の20世紀後半)はいかに世界は平和だったかと考えさせられるのではないかと思います。書籍中には、かなり危ない目に遭ったということが書かれてありますが、現在だったらそんな程度では済まない事態が予想されるのではないでしょうか。

現在、内戦で故郷を追われヨーロッパを目指す難民で溢れかえっている状況がありますが、こうした住む家のない人々に対して建築家がすべきこと、という視点や、地球人口が90億人になった時にどうするかなど、原広司さんは、いつもチラッとなんですけれど、様々な書籍中に、随所に「住む」「人はいかにして住むのか」ということを強く意識した言及があるように思います。
さらに、資本主義的な建築や均質空間に相対するものとして、世界集落調査で出現したような、名も無き人々による建築が集合的にある状態から空間的配列を抽出したり、場が持つ力や、地形から誘起される建築というものがある、と提唱しているとも言えるだろうと思います。

集落についての話を読むと、均質空間だけじゃないんだということ、人はこのようにしても生きられる、住んでいけるのだということ、そういうかなりサバイバルな感覚にさせられますし、一見、非文明的で汚く見えたとしても、儀式的だったり閾の存在によって、きちんと文明化か明示されるといったように、親自然的建築だからといって劣るものではなく、文化的洗練が存在しているということも読み取れるかと思います。
例えば、「スターウォーズ」シリーズに出てくるような砂漠に我々が突如放り出されたとしても、「集落への旅」や、「集落の教え100」、「住居集合論」などを読んでいれば、我々は、自力で何とか建築を作り共同体を形成して生きていけるんじゃないかと思えるような、極端に言えば、そんな本ではないでしょうか。
今行われているのは世界の均質化のための戦争なのだろうけれど、当分終結しないのではないでしょうかね。

難民や、自然災害で被災した人々に対する支援の建築という点では、プリツカー賞受賞の建築家である坂茂さんが積極的に行われているようですね。今回の難民に対しても何かアクションを起こされるのでしょうか。

おそらく、今10~30歳くらいの若い世代の人たちは、「均質」という考えは無いのではないかと思うのですが、どうなのでしょうか。「さとり世代」とも言われるけれども、何もかも飽和状態の世の中にあって、アメリカ型消費社会の奴隷と化してしまっている若い世代は、資本主義以外の価値観があるなんて思いもしないのではないのだろうか。何かもっと、文明化された都市生活から隔たりのある地域にも、文明国と同様の洗練された価値に基づく集落がこの世界の中にはあって、そういうものも歴史の中で抹殺されるべきものではなく、尊厳を保証されるべきものである。そういう意味も込めて、特に若い世代の方々には、「集落への旅」をはじめとして原広司さんの書籍は是非読んでみてほしいですね。見えてくる世界が確実に変わってくると思います。若い方々が知識を持たなければ世界は変わっていかないでしょうから。

 

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