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空間について考えます

伊東豊雄さんの「21世紀の建築をめざして」を読んでみました

「21世紀の建築をめざして」
伊東豊雄 著
株式会社エクスナレッジ

建築家の伊東豊雄さんの、今年4月に出た「21世紀の建築をめざして」をこの度読んでみました。

新国立競技場設計者の隈研吾さんは、木や竹や石といった自然素材を好んで用い、コンクリートを忌み嫌い、ル・コルビュジエも大嫌い、さらにはテニスラケットも大嫌い(確か、「負ける建築」にそんな話があったと思います)、という特徴をお持ちの建築家であるのに対して、伊東豊雄さんの方は、コンクリートが大好きでむしろ得意とする素材であり、ル・コルビュジエも否定はしていない、むしろ伊東豊雄さん自身が、「東洋のル・コルビュジエ」らしき特徴を兼ね備えた巨匠となってきていると言えるのではないでしょうか。

建築家と一口に言っても、信念の上でこのような大きな違いがおありです。

本の内容としては、ル・コルビュジエとミース・ファン・デル・ロ―エの違いや空間が均質化に向かっていることの問題、というお馴染みの議論から始まりますが、わりとすぐに伊東豊雄さん自身の近年の作品の重要な基盤となっている幾何学についての解説へと話が移って行きます。近年の作品コンセプトの傾向を通して未来の建築への提案が浮かび上がってきています。

幾何学のお話や、渦を巻くような、とか、形態がプリントされた2枚の板を引き延ばした時に間に貼ってある布が広がることによってできる空間、など、近年の作品の成り立ちについて伊東豊雄さん自身が詳しく解説されていますので、スケッチや図版を見ながら「そうだったのか」と感心することしきりでした。
常日頃GA JAPANなどの建築雑誌で伊東豊雄さんの作品は見てきているのでどれも既知の作品ばかりなのですが、正直言って、建築写真と名称・所在地をチェックしていただけで肝心の論文の場所を読んできていませんでした(建築雑誌は定期購読しているわけでなく、借りるなどして短時間でパパっとめくって見ているだけなので)。せんだいメディアテークとかも、これまでは単にチューブが建築内を貫いている建築、などという表面的な理解でした。この本で初めて近年の建築の成り立ちや意図、伊東豊雄さんが目指す建築の姿を理解することができ、読んでみて良かったと思いました。ミニ作品集のようでもありますが、新しい空間作りのために次々と繰り出される新たな提案にボリュームを感じる建築理論紹介を重視した構成となっています。

伊東豊雄さんの作品はより生物的でより造形的になってきているように見えます。
自然を模倣しているようでもあります。建築内部に、自然のエッセンスを凝縮した第2の自然を作り出しているようでもあります。
渦を巻くように、そして幾何学、と言っても、一歩間違えるとカオスにはまりかねないものも、伊東豊雄さんの手にかかると大変美しくまとまります。
あまり特定の人のことを書くのはどうかとも思いますが、例えば藤本壮介さんなどが同様のことを行うと、まるで「とぐろを巻いた」ように建築が異様な雰囲気を醸し出し、ちょっと私などは「気持ちが悪い」「過剰だ」と感じてしまうことがあるのですが、伊東豊雄さんの生物的で有機的な造形は、常に美を保持していて少しも気持ち悪くありません。気になりません。色彩についても、伊東豊雄さんが使用する赤い色が、大変官能的であると常々思ったりもします。赤色について絶妙な使い方をされるのだなと思っています。
このバランス感覚や美的センスは生来的なものとしか言いようがないのではないかと思い、建築家というのは、一体いつどこで「美」についての感覚を身に着けるのだろうと知りたくもなってきます。

当ブログの過去記事で、私が最も好きな伊東豊雄さんの建築は「White U」だと書きましたが、その「White U」が最後の方に出てきます。ずっと昔、作品集で「White U」を見た時に、「本当に綺麗な建築だなあ」と思ったものです。その後数え切れないくらいの建築が出現して来ましたが、やはり伊東豊雄さんの建築の中では「White U」が最もそれらしい感じがしますし、あの何とも言えない白くてまったりして籠もり感のある異空間は、伊東豊雄さんにしか作り出せないもののように見えます。

でも、昔と比べて伊東豊雄さんの建築に対する印象はがらりと変わりました。昔はもっと軽いものを目指しているように見えていました。その軽さを私は少々敬遠していました。ところが伊東豊雄さんが元々持っていた軽さのようなものを全て妹島和世さんが持って行ってしまい、より重厚で落ち着きある趣ある造形だけが伊東豊雄さんの元に残ったかのような印象を現在受けています。で、それはとても良いことで、軽々しくない方が良いみたいです。貫禄があるというか、巨匠感が出てきてものすごく良くなっているように見えます。東洋のル・コルビュジエというだけでなく、東洋のオスカー・ニーマイヤーのようにも思えてきます。

おおよその感想は書きましたが、↓こんなふうに借りて来た本に付箋をつけながら読みましたので、付箋が付いている部分の中でも特に印象に残った部分を、少々書き出して終わりにしたいと思います。

8頁「当初イメージしていたストリートコンサートの楽しさが実現・・・・・もっとも感動的な出来事でした。」
18頁「・・・・・野外で本を読んだりコンサートを聴くような自由な楽しさをどうやって建築空間として実現できるのだろうか・・・・・」
89頁「・・・・・自然の中と同じような場所の違いを作り出すべきだと考えます。人が自由に場所を選べるような余地を残しておくべきなのです。」
141頁「彼らは矛盾を一方向で解決するのではなく、二律背反のままに統合する術を心得ているのです。」
141頁「理性と五感への訴えかけを共存させた建築、・・・・・」

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