Qu'en pensez-vous?

空間について考えます

均質空間は「ルーフ」の概念を消去している

建築家原広司さんの「空間〈機能から様相へ〉」の中で、「均質空間論」よりも、実は現代建築に対して大きな影響力を持ち続けている論文は「境界論」ではないかと思われます。

建築の境界を示す3要素は「ルーフ」「エンクロージャー」「フロア」であると境界論の中に記されています。

「エンクロージャー」が「周壁のようなもの」を指す場合、「指定された領域への入出力の制御」のはたらきがそれに対応していると思われます。現代建築、特に隈研吾さんの建築において強く意識されるのもこの周壁部分と思われますし、周壁をパキッと外部から隔たったものにせず、いかに緩やかに外部とつながるものにするかが現代建築の流行ともなっているように見え、発展めざましい境界と言えるのではないでしょうか。

それではその他の境界要素である「ルーフ」は一体どうなってしまったのでしょうか。「ルーフ」に対応する定義は、「意図のありなしにかかわらず、意味の表出=象徴である」が当たると思われます。「屋根には空間を象徴するはたらきがある」「抽象的な境界を意味する」との記述もあります。

均質空間には「ルーフ」がありません。超高層建築には「フロア」と「エンクロージャー」しかありません。高層ビルは「フロア」と「エンクロージャー」を反復するのみで、「ルーフ」に相当する意味合いのものがどこにも見当たりません。物質的な意味での屋根、平屋根は存在しています。しかしそれは実質的にはむき出しになったフロアであり、反復可能で重層可能なさらなるフロア空間を暗示しています。
均質空間とは、無制限にどこまでも増殖可能であるという不気味な空間性を示しており、デカルトの「延長」をトレースしているだけとも言えます。

それに対して「ルーフ」とは、決定的に空間を制限する作用を持っていると言えるのではないでしょうか。
「空間〈機能から様相へ〉」の中では、「ルーフ」の持つ社会的意味や象徴的意味について説得力のある議論が行われています。しかしそれだけでなく、空間をしっかりと閉じる、エンクロージャーとしての機能をルーフに持たせる、という意味合いも実は思った以上に大きく捉えられるべきではないかと考えます。

ドーム型屋根はその好例の一つではないでしょうか。
原広司さんの建築の中では、札幌ドームのようなルーフ、その形態は風船を膨らましたような形をしており、完全に制御された空間が生じています。直観的な記述になりますが、ドームの外部と内部では、空気の密度すら違うのではないかと思えるくらいの空間的差異があります。
原広司さんというと「非ず非ず」や「様相」など東洋的傾向を強く感じさせる議論が多いにもかかわらず、建築の形態面においては、ドームやアーケードなどの西洋的傾向が強く見られます。想像しているよりずっと古典的かもしれません。そして、西洋建築のボキャブラリーを使って強力な空間制御を可能にしています。そこには、際限なくどこまでも続いていく締まりなく緩み切った均質空間でなく、建築家が意図した秩序ある緊張した空間性が出現しています。

周壁という意味においてのエンクロージャーにおいて、外部と内部の関係を曖昧にしていこうという流れがある一方、それでは上方向はどうなっているかと考えた場合、逆行する流れかもしれないけれど、上部はしっかりと閉じる、という方向性も選択肢としてあっても良いように思います。高層ビルの、フロアが無制限に増殖することを予期させる空間性は、果たして「空間」と呼べるものなのでしょうか。上部が開けっ広げで決して閉じることのない均質空間。空間の増殖を野放しにしても良いのでしょうか。
空間とは、建築家によって然るべき方法で制御されなければならないものなのではないでしょうか。空間をあるがままに野放しにしたりせず、内側からも外側からも形を与えるべきなのではないでしょうか。そこに与えられた形こそが空間なのだと思います。

以下「空間〈機能から様相へ〉」から引用。↓
「地縁社会が崩壊したあとで、構築力のあるルーフのある風景は、絵空事にちかいのである。それは屋根のない現代都市の風景と、奇妙な符号を見せる。」
「私たちは、今日において可能なコミュニティ像をうまく表現できないでいる。」

現代建築においては、「ルーフ」に関する考察や試みが圧倒的に手薄になっているのではないでしょうか。「ルーフ」にこだわることは古典回帰かもしれません。しかし一考に値する問題とも思えます。

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