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空間について考えます

「境界 世界を変える日本の空間操作術」監修 隈研吾

「境界 世界を変える日本の空間操作術」淡交社
監修 隈研吾 写真 高井潔

困ったことに、書店では建築の本が、建築の棚と美術の棚と2か所に分散して置いてあったりします。書店にもよるのかもしれませんが。基本的に建築の場所しかチェックしないで美術のコーナーを軽んじていると、こういう本を見逃すことになってしまうんです。
隈研吾さん監修の「境界 世界を変える日本の空間操作術」英文対訳付、は平成22年初版となってますけど、今ようやくこうして手に取りました。美術の棚の方になぜか置いてあったからです・・・。

これ、見てみて、とても良い本だと思いました。ただし高い。3000円もする!
でも、こういうのが見たかったし知りたかった、というまさにツボにはまる写真集です。
日本の古建築における、境界を示唆する建築装置のリストと写真が種類別に載っています。
例えば、縁側とか、暖簾とか、注連縄とか、そういった種類の境界です。

他にも、隈研吾さんによる『日本的な「関係性の建築」の時代へ』というちょっとした論文も載っています。これ、良い感じです。なるほど、というか、またも書き出しから衝撃的に始まり最後まで衝撃的です。

最後の方には、藤本壮介さんと、石上純也さんの境界に関する文章も載ってます。
石上純也さんの書いてることがかなり好印象でした。「省略」について書いているのだけど、すごい良い感じ。

実は私は、藤本壮介さんの作品、ちょっと苦手かも・・・やっぱりこうして写真で見てもやっぱりちょっと、というか、ウッとのけぞる感じが・・・。前から薄々思っていたけれど、やっぱりちょっとダメかもしれない。すみませんとしか言い様が無いですけど・・・。別に建築家さんが悪いわけじゃない。ただの好みの問題。ものすごく作品に特徴があるにはある。すぐに誰の作品かわかるにはわかる。
石上純也さんの作品はOK、大丈夫、特に抵抗感は無いです。
やっぱり好みっていうのはどうしてもあるかもしれない。

ところで、縁側についてですけど、個人的には大変思い入れがあります。私が3歳くらいまで住んでいた家は、中庭に面して縁側があり、そこで過ごしていることが多かったように思います。縁側で季節を感じました。蝉の鳴き声や、夕立の涼しさなどを感じた。同時に、縁側の湿り気や気持ちの悪さ、湿度の高さによるカビのような臭い、良いことも悪いことも全部含めて、そうした幼い頃の記憶と結びついているのが縁側。やはりそういう自然の気配を知らず知らずのうちに建築を通して体感して来たんだと思います。こうしたことも空間体験のうちの一つと言えるのだろうと思います。

現代の、空調で管理された室内、自然から切り離された鉄筋コンクリート造の空間。そういうのに慣れてしまうと、建築とは清潔で乾燥しているのが当然で、建築内にいる人間そのものまでもが高度に人工的なソフィスティケイトされた存在であるとの誤った認識に支配されてしまうかもしれない。
湿度が高いと気持ちが悪い。ものすごく気持ちが悪い。木造の住宅が湿度によって朽ちて行き、古ぼけた臭いを発するようになる。こういうことすら、現代の人たちって知らないのかもしれないと思ったりする。そういうことを知らない世代の人たちは、ある意味不幸であると言えるかもしれないと思ったりもする。
とすると、建築とはやはり、自然をコントロールしてきたし、コントロールするものであるというところに行き着いてしまいます。

そんなことにも思いを馳せられもする、古建築を集めた興味深い写真集となっています。

『小さな建築』 隈研吾 著 - Qu'en pensez-vous?

『ディスクリート・シティ』 原広司 - Qu'en pensez-vous?