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空間について考えます

『建築から都市を、都市から建築を考える』槇文彦 著 聞き手 松隈洋 岩波書店

『建築から都市を、都市から建築を考える』槇文彦 著 聞き手 松隈洋 岩波書店

建築家の槇文彦さんと建築史家の松隈洋さんが、対談形式で建築と都市について論じる内容となっています。

第Ⅰ章~第Ⅴ章まで順番に語られていますが、それぞれの章で詳しく、槇文彦さんの空間に対する考え方や、コミュニティに対する考え方など、徐々にわかっていくようになっていて、おぼろげに槇文彦さんの人となりというか、お人柄についても何となく伝わってくる感じがあります。
今まで、槇文彦さんというと、何というか、高貴な感じがして近寄り難いイメージというか、上流階級過ぎて言及もはばかられるようなイメージすらありましたし、お写真で見る限りそのノーブルなお顔立ちから、とてつもなくクールなイメージもありました。しかし、この対談集を読んだ後の感想としては、アメリカ仕込みでとてもオープンで大らかな感じもあり、子煩悩らしき一面もあり、公共空間や社会に対してとてつもなく温かい眼差しをお持ちの建築家であると思いましたし、全体的にとても良い印象を受けました。

建築関係の本を読んで、「心が温まる」ということはなかなか無いと思うのですが、この「建築から都市を、都市から建築を考える」は、読むとなぜか心がとても温かくなります。社会を形作る人、一人一人に対する信頼が根底にあるというか、最も大切な社会基盤とは一体何であるのか、ということを思い出させてくれるような示唆的な内容となっていると思います。

先ほど、アメリカ仕込みと書きましたが、場所的にはアメリカなのだけれども、実際には槇文彦さんの先生というのは、ル・コルビュジエのお弟子さんであったということで、やはりモダニズムがその作品の根底にあるということになると思います。

都市や建築については、極めつけはやはり、第Ⅴ章の最初のお話に出て来るように、槇文彦さんは路上で突然、「これからの建築はどうなるんでしょうか?」と知らない人から尋ねられた、というエピソードだと思います。非常に切実な質問の仕方だった様子です。
その質問に対する答えが、この本一冊読むと、何となく、ぼんやりとですが、わかるかもしれません。

ところで、世の建築家の方々は、一般的に、自分以外の同時代の建築家の人たちの話をあまりしないというか、特にこのような文書化するような場面で、他人の建築を褒めたり、話題に挙げたり、ということは滅多に無いように思うのですが、槇文彦さんに関しては、もう平然と、同時代建築家たちの作品を、良い、と褒めたりしていることが多いように思います。新建築などの建築雑誌においても。年長者の余裕とでも言うべきか、このあたりの感覚が非常に大らかな感じがします。

以下、第Ⅰ章からもう少し詳しく感想を書いていきますと、第Ⅰ章では、槇文彦さんの、空間体験、特に幼少時の頃の空間体験についての話が、最もインパクトがありました。

第Ⅱ章においては、「尊厳ある一人の場所を」と始まるところで、53頁にある次の文章「・・・・・オープン・スペースの話をしたのですが、・・・・・東京に行くときはいつもスパイラルのあの椅子に座るといっていました(笑)・・・・・そういう話を繋ぎ合わせてゆくと、パブリック・スペースとは、実は、一人のためにある。・・・・・」、このあたりに共感しました。

第Ⅲ章は、読んでいて急に私の頭に思い浮かんだのは、現代は世襲制の社会に逆戻りしつつあるというトマ・ピケティの経済についての話。土地の問題は相続税の問題と関係し、相続税対策などの話もあり、76頁の「・・・・・これほど膨大な資本が費やされ、しかし残されたものが少ないのは、世界でも類をみない現象でしょう。」あたりは、スケールの大きい話で庶民感覚では付いていけない世界な感じ・・・。

第Ⅳ章は、「奥」の話と、軽井沢の夏の間だけ集う家族たちの光景が印象的です。

第Ⅴ章は、「空間に歓びを感じるか」というお話です。

最後にに、対談ではなく「人間が「建築をする」ということ」という槇文彦さんの文章があり、松隈洋さんの「普遍性と倫理」という文章もあり、盛り沢山となっています。
全体的に思うことは、スケールの大きな建築でも、小さいスケールの空間(オープンスペース、パブリックスペース)を有しているといったような、マクロとミクロを両立させることによって、人に歓びをもたらす空間へと誘う、という建築スタイルを強く感じました。

というわけで、槇文彦さんと松隈洋さんの「建築から都市を、都市から建築を考える」読んで良かったと思います。是非おすすめ致します。