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空間について考えます

『小さな建築』 隈研吾 著

小さな建築 岩波新書 隈研吾 著

新国立競技場を手掛けることが決まった建築家・隈研吾さんの建築論です。と言っても2013年発行なのでもう3年前の本になります。

同じく岩波新書から出ている「自然な建築」という本も良かったですが、こちらの方がより野心的な印象です。「小さな建築」非常におすすめ、良書です。

あとがきにも書かれてあるように、『「小さな建築」という基準で建築史を書き直したような本になった』となっていて、3.11クラスの歴史的大災害から建築史を振り返る感じで話が始まるのですが、吸い込まれるようにグイグイ読めてしまいます。こんな切り口の話が聞きたかった、という我々のツボをまさに直撃しています。

少し前から当ブログでも扱っている「セルフビルド」、あるいは簡易住居、あるいは自分たちの手で一から作り上げるできるだけ簡単な建築、というものを、ここのところ触れてきましたが、この「小さな建築」に出てくる作品は、まさにそうしたカテゴリーの建築作品の試行錯誤について書かれてあります。

「自然な建築」を読んだ時にも思ったことですが、隈研吾さんの本を読んでいると、「物を作る」「手で物を作る」ということについて考えさせられるし、「クラフト感」というか、工作と呼ぶべきものなのか、わりと馴染みのある手に入りやすい素材を用いて何でも自分でやる!という雰囲気が伝わってきます。それが楽しそう、と言うよりかは、どちらかというと、逆に合理的というか、シンプルであればあるほどいいのだ、という感じもするし、建設会社などに頼らず何でも自分でやる、というのが、簡潔であり身軽であり、確かにこのセルフビルドの精神こそが21世紀のスタイルというか、建築の方向性なのではないだろうか、と強く確信させられます。
とにかく、シンプルで単純なのがいいし、自分で何でも作れるんならそれに越したことは無い、そう強く思わせられるし、非常に共感できます。

何かに依存しない、インフラや政府に依存しない、自立した建築、しかし自然の力に「もたれかかっている」建築、それが小さな建築である、という感じで話が進んで行きます。

ただ、いろんな話が書いてありますが、ここに書かれてあることはおそらく氷山の一角だと思います。というのは、GAJAPAN135でビットモデリングが特集されていましたが、そこに元隈事務所の方のお話が掲載されていましたが、銀座ティファニーファサードデザインなどコンピューターで行う設計という部分も大きなウエイトを占めているはずです。そういう話は一切この書籍中には出てこないわけで、所員さんたちの膨大な裏方仕事によって隈研吾さんの建築は実際には出来上がっているのだろうとも思います。

ただ、これらアイディアというか、こうして本に書いて公表できる部分だけでも非常に面白いし、建築史の勉強にもなります。

当ブログでも最近ちらっと「謎の人物」として書いた、バックミンスター・フラーについての隈研吾さんによる解説もありますし、衰退してしまったメタボリズム黒川紀章さんについても触れられています。ちょうど、当ブログで「?」マークが付いていた、バックミンスター・フラーメタボリズムについて、この「小さな建築」中に両者についての簡単な解答が得られます。形態パターンの繰り返し積み重ね、何かに似ている、隈研吾さんて現代のメタボリズムを目指しているのかと勘違いしていた時期もありましたが、この「小さな建築」を読むとヒューマンスケールのサイズ感においてそれとは異なるものであることがわかります。
その他、歴史的建築家の名前や業績も随所に登場しますので、やはりこの本は、建築史から、隈さんの意識が向くものをピックアップして語り、さらに作品に応用するその過程を記録している感じが強いです。

形態の傾向や、美的センスについて思うのは、隈研吾さんは、日本的ではなくどちらかというと大陸的な雰囲気を感じてしまうのは私だけでしょうか。中国っぽい感じがするんです。そして、生物的な感じもします。

パッと見て私が「小さな建築」の書籍中で一番好きな作品は、「フランクフルトのふくらむ茶室」です。新国立競技場、こういう形のものが出て来るのではないかと私はイメージしていましたが、完全に外れました。

最後に書くべきこととしては、こうした本を書いている隈研吾さんが、いわゆる「大きな建築」の最たるものである新国立競技場の設計者になっちゃった、ということで、本当に、新国立競技場が「小さな建築」的なアナーキーな性質を保持し続けることができるかどうは、一建築ファンとしては気になるところです。物理的に大きな建築を手掛けようとも、「小さな建築」であり続けなければ隈研吾さんではなくなるでしょうから。

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