Qu'en pensez-vous?

空間について考えます

『ディスクリート・シティ』 原広司

先日、『世界で一番美しい名作住宅の解剖図鑑』を記事にした中に、イラクなど紛争地帯に6日間で建設できる簡易住居、ネダール・ハリーリによる「スーパーアドビ」というものがありました。
その関連で語りたいと思いますが、建築家の原広司さんも、そういった感じの自分たちで作り上げるタイプの住宅を作っていることを思い出しました。南米ウルグアイの首都モンテビデオでの試みです。『ディスクリート・シティ』という書籍中に、実験住宅モンテビデオの詳細があります。しかしこちらは6日間でできるような極端に簡単なものではなく、かなり手の込んだ実験住宅です。手描きの図面など見てみると大そうな代物に見えますが、建設会社が請け負う建築ではなく、セルフビルドの、自らの手で一から作り上げるというプロジェクトでの住宅建設の記録となっています。

ディスクリート・シティ』は4冊セットで、Vol.1が空間に関する論文、Vol.2が対談集、Vol.3が実験住宅モンテビデオの建設中~完成までの写真、Vol.4がドローイング、手描きの設計図となっています。

Vol.3に、10月初旬に始めて12月初旬に出来たと書いてあるので、工期は約2か月のようです。2か月!セルフビルドでこれはかなりヘビーではないでしょうか。建設中の様子が写真でみることができますが、かなり大変そうです。人手も必要だし、経験のある腕も必要そうです。屋上の防水のビニールテントが何だか心許ない感じに見える。

ディスクリート・シティ』というタイトルからもわかるように、空間概念における離散性がテーマとなっています。昔から小出しに離散性というキーワードは登場していたはずですが、この書籍では「離散性」という概念を大々的に掲げているということで、かなり度肝を抜かれた感じが当時はありました。「連結可能性」、「分離可能性」などという言葉が出てきたりしていて、実験住宅モンテビデオの形態やプランそのものが、連結可能性や分離可能性を示唆しており、空間理論が、建築において実現しているということで、単にセルフビルドの実験住宅というだけでなく、「建築は出来事である」ことの実例を付加しているところが、非常に巧妙だと思います。

今回、記事にするにあたり、Vol.2「ディスクリート・シティ」と<実験住宅 ラテンアメリカ>をめぐるディスクール、を集中的に読んでみました。
やはり、読み落としというか、今回新たに気が付いたこと、驚いたことなどありました。

まず、注釈で書かれている細かい字のところにある、註11弁証法についての議論。アリストテレスによる弁証法否定の否定の形式)、そして非ず非ずの全否定の論理、そう、ここまでは「空間<機能から様相へ>」でも読んで学んでいるので知っている。
さらに、インディオの離散型集落の風景が、弁証法でもなく「非ず非ず」でもなく第三の否定の論理の風景であってほしい、と書かれてある点!そうか、そうだったんですね。
もう一つは、註5の、「ある場を取り出すとき、それを一度記号化する作業が必要である」のあたり。「出来事の中にものの論理が残ってしまうのは問題」のあたり。「場を出来事として示すために、それをアトラクターと呼び記号化する、このとき取り出されたものが記号場」と書いてある!

この註5、非常にわかりやすいです。
今まで記号場というのが本当に不思議でしょうがないと思っていたけれど、少しわかってきたような気がする。

本文の対談の方でも、空間の文法に関するところで、「屋根・壁・天井で話す建築ではない建築の理論というものにつながる」というお話もあります。なんとなくひらめきました。ここの対談で話されている内容は少し違うことについて語られているのだけれど、一体、何をしようとしているのかということが直観で理解できた気がします。

原広司さんて、次元が一つ上がっている。
原さんて根本的に頭が良いのだと思う。東大の先生だったのだから頭が良いのは当然にしても、空間認識において通常ではない能力を持っているように思える。

物理学者のリサ・ランドールなどが、次元の説明をする時、必ず一つ下の次元の2次元空間を例に挙げて説明する。3次元空間に生きている我々には3次元の例えは有効でないようだ。
一つ下の次元でなければ我々は理解が難しいのだけれど、原広司さんは、3次元空間にありながら3次元的な説明法を試みているし、さらには原広司さんが表す数式は、時間経過も加わっているということで4次元的。
原広司さんの建築も、孔を穿つということから始まって、それが非常に3次元的で、元々空間を量塊で考えている傾向が顕著ではないかと思う(屋根・壁・天井などのエンクロージャーでは考えない)。

実は、原広司さんの書籍の中では、この『ディスクリート・シティ』中の、特に実験住宅モンテビデオというのが、どうもとっつきにくく敬遠していたのですが(何故だろう?)、今回記事にしてみて、すっかり苦手意識も消えた感じです。

この『ディスクリート・シティ』が出たのが2004年となっていますので、もうかれこれ12年も経ったということになりますか、信じられません。

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