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空間について考えます

「空間<機能から様相へ>」

今週のお題「人生に影響を与えた1冊」

「空間<機能から様相へ>」 原広司 著 岩波書店

 梅田スカイビル、京都駅、札幌ドームで知られる建築家、原広司さんの著書「空間<機能から様相へ>」についてご紹介します。

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 現在、絶版となっていますが、図書館なら確実に読めます。
 写真は、2007年に岩波現代文庫から再出版された「空間<機能から様相へ>」ですが、文庫版では、「空間図式論」がカットされているので、元のハードカバーの版で読むことをお勧めします。岩波現代文庫の方も現在は絶版です。
 「空間<機能から様相へ>」は、原広司さんの理論を理解する上で、読まなければ話にならない内容となっています。「集落の教え100」の補注にも、ざっくり大まかに理論の説明がありますが、やはり、この書籍中の論文には価値があり、原広司さんの思考の出発点になっていると思われます。いろいろなお話を建築雑誌やその他書籍で読むにしろ、「空間<機能から様相へ>」の内容を理解していなければ何のことを言っているのか、何を問題としているのか、何を追求しようとしているのか、わからないのではないかと思われます。
 また、この本を読んでから、原広司さんの建築を実際に見に行きますと、高い鑑賞効果が得られます。理論と建築空間が対応関係にあるところが、原広司さんの建築作品の特徴でもあります。原広司さんの建築を訪れる際には、是非、書籍の内容を頭に入れてから行かれるのが良いと思います。要予習です。

目次

均質空間論(1975)
<部分と全体の論理>についてのブリコラージュ(1980)
境界論(1981)
空間図式論(1985)
機能から様相へ(1986)
<非ず非ず>と日本の空間的伝統(1986)
あとがき
参考文献
事項索引

 各論文がリリースされた西暦を見ると、古い、という感じですが、30~40年後の今も、内容的に色あせてはいません。特に、「均質空間論」は力強く、迫ります。約半世紀後の未来をまるで目の前で見たかのように論じた小論でありますし、批判精神にも満ちています。
  旧ブログでも同様のことを書いた記憶がありますが、「均質空間」は、まだその当時、日本中の都市には超高層建築などそんなに多くは存在していなかったはず。超高層ジャングルをくぐり抜ける都市生活が一般の人々の間にまで広く根を下ろしたのはせいぜい今から20~30年前のことではないでしょうか。ミース・ファン・デル・ローエのガラスの超高層という決定的モデルがすでにあったにせよ、それが支配的空間として世界を覆い尽くしたことを前提として議論が進んでいく様は、二度と引き返すことのできない文明の悲しい現実を私たちに突きつけている気がします。しかし、すべての望みが絶たれたわけではなく、小論のすべてで均質空間の次に来たるべき空間についての模索が行われます。
 個人的に好きなのは、「境界論」です。
 目から鱗、というか、初めて読んだ時にびっくりしたのは「<非ず非ず>と日本の空間的伝統」でしょうか。
 私が「空間<機能から様相へ>」を初めて読んだのは、20歳前後のことです。今から約20年前のことになります。当時ですら、すでに絶版で、図書館で読みました。この本を読んでから、梅田スカイビルに上ってきました。若い時ほど、こういう刺激的な本を必要としていると思います。恐らく、この本のおかげで物の見方が変わったと言えるほどの影響力がありました。
 原広司さんは、意外にも体制派と言いますか、一見レジスタンス風に見えるけれどもスタンダードは絶対に外さない非常に常識的な立ち位置を保持されているように思います。しかし、読者の心を捉えるのはのは、やはりその批判精神と問題提起の力ではないでしょうか。
 この世界の現状に満足しない、現実に抗うパワーのある、意欲ある若者にこそ、特に、これから、建築や、芸術系~哲学系を学ぼうとしている若い方にこそ、読んでほしい書籍です。そして、夢を忘れてしまった大人の方々にも是非読んでほしいと思います。世界に対する希望が蘇ると思います。