文化庁国立近現代建築資料館にて開催中の「日本の近現代 建築家たち」の「第2部 飛躍と挑戦」を見に行って来ました。
主な目的は、建築家原広司さんの展示資料の中に「影のロボット」と表記があったため、是非見たい、と思って訪れたのですが、何と、「影のロボット」の現物そのものの展示はありませんでした。過去に、書籍「住居に都市を埋蔵する」や「YET」中の図版として、「影のロボット」は度々登場していますが、それと同じものと思われる写真が展示されていました。主たる目的として「影のロボット」のために来館したのに、これはガックリ、と落胆していましたが、プロジェクターからスクリーンに投影されていた映像の中に、「影のロボット」が作動している時の状態の映像が流れていることに気が付き、この映像が見れただけでもかなり感激しました。スクリーンの延長線上のチェアに腰掛け、合計4回、「影のロボット」の作動状態の映像を見て、かなり満足して展覧会を見終えることができました。
その時の来場者の人たちの中で、「影のロボット」作動状態の映像に感じ入っていたのはどうやら私1人だけだった模様で、他の方々は、もうひとつのスクリーン上にプロジェクターから映し出されている建築家隈研吾さんのトーク映像に夢中だったようで、スクリーン正面の6席くらいでしょうか、満席状態で老若男女が隈研吾さんのお話に聞き入っていました。
あまり原広司さんの「影のロボット」は知名度がそれほどでないのでしょうか?私などは、書籍「住居に都市を埋蔵する」や「YET」中でよく見かけていたためか、単にこの手のものが好きなのか、前々からこの作品に物凄く興味がありました。確かにこれは建築作品ではないので、一体何なのかと言ったら、多層構造モデルの頃のオーバーレイというワードが良く登場していた頃の、原広司さんのインスタレーション的な作品ではないかと思います。正直、この作品のことを何と呼べば適切なのか不明な上、1984年の作品にしてはかなり未来を先取りしたアート作品の部類に思えますので、現代ではそれはインスタレーションと呼ぶのか、コンセプチュアル・アートと呼ぶのか、という感じでしょうか。
ラ・ヴィレット公園の案で付随して出て来た作品だったように思います。
スクリーンに投影された「影のロボット」作動状態の映像は、ざっくり言ってしまえばクリスマスの電飾のようでもあるのだけれど、それよりもより儚く、図柄が宇宙探査機に搭載されたダヴィンチによる人体図風でもあり、人間の意識の回路図を表しているようでもあるのだけど、それが煌びやかに輝き、夢のように消え入る様子はまるで打ち上げ花火の儚さにも似ていて、青色から赤色に切り替わり、最後、筋のように赤く光る様子は、線香花火を想起させられたりもして、とても幻想的でした。
建築家原広司さんの資料の中で他に見入ったのは、手書きのスケッチ数点でした。1年前、原広司展があった時に有孔体のアクリルパネル製作品が設置されていた場所と同じ場所、低い階段を上って少し上から眺められる所に、スケッチ数点がありました。ヤマトインターナショナル風、飯田市美術博物館風、田崎美術館風、なスタディ段階らしきスケッチや、アーチ状トップライトのようなスケッチもありました。
そう言えば、他に驚くべきものがありました。浪速芸術大学設計競技の案。まるでジグラートのような透視図が、スクリーンに映し出されたのを見て驚きました。ケルン・メディアパークの案は書籍「YET」で見たことがありました。
1年前にあった原広司展よりも、今回原広司さんの展示資料は少ないけれど、今回の方が内容的に良かったように個人的には思いました。
単に、自分が多層構造モデルの頃の作品群が好きなだけかもしれませんけれど。田崎美術館の美しさが今でも忘れられません。また行きたいと思うけど、そもそも軽井沢になかなか行かないので。
展示室の外に、オーラルヒストリーとして映像がモニターにリピートで流れていましたが、そこに原広司さんのトークもありました。2回見てから帰りました。数年前の映像みたいですけれど。
お話の中で、「様相」「幻想を発生させる装置」「美しい幻想が見える そういうのが良い建築」など、お話されていました。「影のロボット」はそのイメージの作品化であるし、当時は意識の覗き込みというお話もあったと思いますが、多層構造モデルの頃の建築作品は多少メルヘンチックな雰囲気もあったりもしてかなり好きですね。
というか、今頃になって気が付きましたが、こんな風にブログで感想を書いていないで、展示室出た所に置いてあったはずのアンケ―ト用紙に、「影のロボット」の映像が良かった、など、展覧会の感想をちゃんと書いてくれば良かった、と思いました。普通の美術の展覧会では、行くと数回に1回くらいはアンケートを書いてから帰っているのですが、今回はすっかり忘れていました。当ブログ、ぜんぜん美術館の展覧会に行った記事を書いていませんが、実は美術展はかなり行ってます。なぜ記事にしないのか、その理由はちょっとわかりませんが、洋服を買いに行くとか食事に行くとかと同じ延長線上で美術館に赴く習性があるため、わざわざ書くものだと思っていないのかもしれません。
建築家原広司さんの作品や資料についてばかり書いてしまいましたが、この建築展で、その他にも見たいと思って見に来たものがあって、それは、坂倉準三さんの新宿西口広場と、吉阪隆正さんの大学セミナーハウスです。
私は以前、京王線ユーザーだったので、何と言っても新宿西口です。再開発されるのは本当に嬉しいです。NHKEテレ「日曜美術館」で再開発案が人間ファーストな感じのランドスケープになっていたので、そうそう、これこれ、と思いました。ただ、私は新宿西口のモザイク通りが好きだったので、それは悔やまれるというか、すごくもったいないと思っています。ミロードも好き。小径文化を残してほしい。小径を重要視してくれる設計部は今時、竹中工務店くらいしかないでしょうか。
吉阪隆正さん設計の大学セミナーハウスは、その名の通り、セミナーがあって勉強のため私はその建築を昔、訪れたことがありました。
最近少し、高松伸さんの建築には興味はあったので、展示室外のモニターで高松伸さんのトークが聞けて良かったです。形態とか、わりと難しい話を滔々と何も紙などを見ずに文章をお話しになる。鉛筆の話をされてました。確かに高松伸さんて、形態をデッサンするようなスケッチをされますよね。鉛筆を手で削る(削ぎ落とす)所からが始まりなのでしょうけれど、8H9Hってお話されてましたけど、それ1度描くと2度と消えなくない?というか消しても紙に跡が残る?って感じですが、シャープさは出そう。
他に書くべきこととしては、安藤忠雄さんの資料の中に、隈研吾さん宛の手紙がありました。手紙はこの建築資料館の内覧をお知らせする内容でした。帰宅後、ウィキペディアで調べたら、開館の経緯がやっとわかりました。
本当に、この展覧会を見に行って良かったと思います。大変面白かったですし、心が洗われた気がします。この展覧会に気が付いて良かったです。2月4日までです。
「建築に何が可能か-有孔体と浮遊の思想の55年-」展を見ました - Qu'en pensez-vous?
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建築家伊東豊雄さんの「最後の講義」が放送されていました - Qu'en pensez-vous?